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『おらおらでひとりいぐも』根底に流れる遠野物語と老いの孤独を楽しむ暮らし

2020年1月8日更新しました。

若竹千佐子さんの芥川賞受賞作「おらおらでひとりいぐも」が50万部を超えるヒット作になっています。

東北弁で綴られた小説は、著者のデビュー作。

史上2番目に高齢の芥川賞作家として話題ですが、63歳という年齢は今の日本では、むしろ人生の華ではないでしょうか。

テーマは老いの孤独、といっても暗くなく明るく語られています。根底に著者のふるさとに伝わる伝承文学、『遠野物語』柳田國男著がある感も。

『おらおらでひとりいぐも』の世界をお伝えします。

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主人公の桃子さんは74歳

主人公は桃子さん。74歳という設定で夫に先立たれてひとり暮らし。

上京したのは24歳、東京オリンピックの前年である1963年なので、桃子さんは1939年生まれになりますね。

この小説は2012年(平成24)の桃子さんの暮らしと、心のつぶやきで構成されているといえるでしょう。

息子と娘がそれぞれ家庭を築き、桃子さんは都市近郊の住宅地でひっそり暮らしています。 

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 故郷を後にしたのはもう50年も前なのに、桃子さんの独り言は故郷の方言が色濃い。

とりとめもなく昔のことが思い出され、小学生のころや今は亡き祖母のことが胸をよぎる。

そして、心がすれ違いがちな娘のことや夫の若い頃に思考は飛び、桃子さんは独り言をつぶやき、体を動かしたくなれば足を踏みならして踊る……。

桃子さんは自分が認知症の初期ではないかと疑い、日常が壊れることを怖れつつも面白がる余裕がまだ残っているという高齢女性です。 

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 私にはとてもリアルな作品。実母が77歳で認知症と体のマヒで老人施設に入所していますから。

 

遠野生まれの若竹千佐子さん

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おらおらひとりでいぐも

卓越した語りが持ち味の『おらおらでひとりいぐも』。

若竹千佐子さんは文藝春秋3月号のなかでこんなふうに話しています。

「若い頃から小説家になりたいと思っていたのですが、筆一本で食べていけるとは思っていませんでした。

教師を目指して、岩手大学の教育学部を卒業。

臨時採用の国語教師として教壇に立ちながら、採用試験を受けても不合格になることを繰り返して……」

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「そんな暮らしが5年も続き挫折感を抱き、脚本家を目指すために埼玉・南浦和に移り住み、塾講師の仕事をしたのです」

その後、遠野の父から見合い話が持ち込まれ、会ってみると「いい人だな」と感じて結婚。

ほとんどを専業主婦として過ごし、育児や家事のほかに、夫と山登りなどを楽しんでいたが、2009年に夫が脳梗塞のため57歳で急逝

呆然としたとき息子から早稲田大学エクステンションセンターで開講していた小説講座を薦められたそうです。 

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 夫が突然に50代後半で亡くなったら、それはそれはショックに違いありませんね。小説教室には8年ほど通われたそうですよ。

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遠野物語の豊穣さが土台に

受賞作品に話を戻すと、桃子さんの思考は過去、現在、未来を自由に飛翔し、次第に小さな子どもになって故郷の懐かしい我が家に帰るのです。

練炭ごたつのもぐりこんでやけどした右足。雪道をそりに乗せられ、診療所に通った記憶……。

雪道に落ちている松葉の香りや、そりの鈴の音が叙情的に描写され、小説らしい幻想が盛り込まれています。

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 小説はノンフィクションと違い、非日常性や幻想的な描写があったほうが、文学性が高いとされます

 著者は岩手県遠野市出身。私は遠野と言えば『遠野物語』を、思い出されてなりません。

遠野物語は、柳田國男が遠野の伝承を佐々木喜善から聞き、筆を執った説話集。

おしらさまや雪女、山男、イタコ、狐憑きなど霊的であり、怪異なエピソードが何十も。

日本の原風景の一端を知ることができる一冊です。

 

『おらおらでひとりいぐも』 若竹千佐子著

遠野市を旅した方はおわかりと思いますが、山間部の町です。

切り立った山が連なり、谷は深く、峠道が続きます。

江戸時代は南部藩に属して飢饉のとき、農民がむしろ旗を立て一揆を起こした土地。

田んぼが少なく、重税感があったのでしょう。

『遠野物語』はそんな江戸時代が終わリ、明治になってから書かれた本です。

民俗学の権威である柳田國男は、明治8年生まれで昭和37年没。

桃子さんが上京した頃に、柳田國男が亡くなっていますね。

著者の胸底には、故郷の濃い記憶があふれているように感じました。

tameyo.hatenablog.com

家の守り神とされた、東北の おしらさまについての過去記事です。

温かなラストが心を打つ

ラストに孫とのふれあいが描かれ、ほっとします。読後感がよく、しみじみとしました。

写真でお顔を拝見すると、溌剌とした印象の若竹千佐子さん。

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 これからもたくさんの作品を生み出されることでしょう。

老いを楽しむ気持ちが、中高年の読者の心をがっちり掴んだ作品です。

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